むすび

 中里城跡は、昭和63年の試掘調査以来、T郭を中心に発掘調査を進め、その成果は本書に記述された各委員の報告で理解されていることと思う。町民の“いこいの広場”として企画された公園化の事業も、歴史を背景に据えた重みのある場を想定した計画に、賛意を表するとともに協力は惜しまぬ所存である。町民に中里城跡調査の意義を理解していただくために企画された、本書の刊行に際し、調査に携わる一員として所見を述べておきたい。

 町民各位は中里城跡の調査について、その必要性を本当に理解されているであろうか。この多忙な時代には過去よりも現在、そして未来の方が重要と考え、発掘調査は過去への郷愁を抱く人々の所業と思われる方々が居られるかも知れない。

 例えば次のような観点に立って、調査の推移を見守っていただけないだろうか。人々は誰でも生まれてから現在に至るまでさまざまな経験や体験を重ねられたことと思う。その経験や体験がいわば自分の歴史であり、さらに拡大すれば、自分の両親さらに祖父母、曾祖父母と辿って行くと、わが家の歴史が浮かんで来よう。村や町にもその変遷(歴史)があり、これらは一般に地方史といわれているが、規模を広げて国で捉えると、それは日本史(国史)となり、小・中高などの学校で習って来たものである。

 現在のように科学技術の進歩した世界では、まかり間違って戦争になると、先般の湾岸戦争のように、結果は環境破壊に見られるごとく、きわめて悲惨な状態となる。科学技術は本来、人々の幸せのために考案され、そして改良されるものなのであろうが、時にはその逆になる場合も多い。一体科学技術の進歩・発達は、われわれの未来の幸せを保証してくれるのであろうか。そのような危惧を抱かせることが余りに多いために、われわれは不安感を抱かざるを得ないのである。しかし多くの人々の不安とは裏腹に、世の中はわれわれの力ではどうすることも出来ない大きな力で動いているのである。このどうすることも出来ない現実を、歴史的現実(一般には宿命)と呼ぶが、これら歴史的現実は過去にその根源があり、過去の人々の行為がいわばわれわれに伸し掛かり、われわれの行動を規制しているのである。そのため現代を出発点として未来へ向い進んで行こうとするわれわれは、現代を規制している過去を知ることが大切なのである。もう一度言うと過去を知ることによって未来が洞察出来るのである。中里町では町の未来の発展を意図して、中里城跡を町民の心の寄りどころになることを期待して発掘調査を実施し、そこで発見された遺構・遺物をもとに歴史を基盤とした公園化を計画している。そのためにも現在行なっている発掘調査を理解され、今後はそれらを基盤にして、町の将来の発展のためにも、ぜひ建設的な御意見等を期待し切望する。

 *歴史の学習はなぜ必要かについて、有光教一・樋口隆康編『世界歴史 第1巻(先史の世界)』が詳しい。その一部を引用している。

                                 (村越 潔)