2 遺跡立地付近の気象

 遺跡周辺の気象については遺跡立地点である中里町の気象観測データが無いために、次の3地点の地域気象観測所及び青森地方気象台における気象観測データに基づいて記述したい。

 市  浦 地域気象観測所 北緯 41°03.1′ 東経 140°21.1′  標高  20m

 蟹  田      同        北緯 41°02.6′ 東経 140°38.6′  標高  3m

 五所川原    同        北緯 40°48.4′ 東経 140°27.7′  標高  9m

 青  森 地方気象台     北緯 40°49.1′ 東経 140°46.3′  標高  2.8m

 ところで、各観測地点の気象観測データは1977年から1991年までの15年間にわたるデータであって、各観測地点における準平年値を示している。また、データそのものが、冷夏及び暖冬少雪にみられるように、ここ7年間継続している異常気象による影響が大きく反映しているものと思われる。

 中里城跡からの検出遺構にみられる各時代の気象についての記述は困難である。あくまでも本遺跡における地理的環境を考慮して、上記の4地点における気象観測データを参考にしながら推論してみたい。

 

 イ 地理的環境

 各観測地点の地理的環境についてその概要を述べたい。

 市浦地域気象観測所は津軽平野北端部に位置する十三湖の北岸にあって、相内川下流域の標高20mの河岸段丘上に位置する。本遺跡はこの地点より十三湖を挟んで約12q南東方に立地している。平野部の東側には津軽半島の脊梁部をなす津軽山地が南北に縦走している。特に、北方から東方にかけては増川岳・四ツ滝山・木無山・玉清水山・袴腰岳など標高500m〜700mの山稜が連なっている。一方、南側は浜堤の発達により日本海より隔離された潟湖としての十三湖が存在している。

蟹田地域気象観測所は市浦とほぼ同緯度に位置するものの、津軽山地を挟んでその東方の陸奥湾に面している。陸奥湾岸に面した標高3mの海岸平野に位置している。この付近は津軽山地東縁に位置する標高約 200mの開析された丘陵部が陸奥湾に迫っていて、平野部の発達が貧弱である。ただ、蟹田川流域には小規模ながら谷底平野が発達し、また蟹田川以南においては南下するほど湾に平行する海岸平野の発達が目立っている。

五所川原市は低平な津軽平野のほぼ中央部にあって、岩木川沿いに位置する五所川原地域気象観測所の標高は9mである。本遺跡はこの地点より約18q北方に立地している。平野部の西側には「屏風山」と呼ばれる標高50m以下の台地が存在し、これによって日本海から隔離されている。一方、東側には赤倉岳・大倉岳・十二岳・源八森・馬ノ神山・梵珠山など標高300m〜500mのやや低い山稜が南北に連なっている。

青森市は陸奥湾南岸に突出する夏泊半島を境にして西方の湾奥部に位置している。市街地東方には奥羽脊梁山脈の北の延長部にあたる夏泊半島があり、西方には奥羽脊梁山脈西縁にあたる津軽山地があって、両山地に挟まれた低地内に位置している。また、市街地南方には火砕流堆積物からなる火山性の台地が展開して八甲田火山北麓へ連続している。なお、青森地方気象台は湾奥部に展開する谷底平野の海岸寄りに位置し、標高 2.8mである。

 

 ロ 気温

  各地点の日平均気温の月平均値は、いずれも最暖月が8月であって20℃を超す気温を示し、また最寒月が1月で氷点下を記録する、ほぼ同じ気温変動を示している。ただ、月別の平均気温をみると、4〜8月の春季から夏季にかけては気温差が認められ、五所川原及び青森では他の2地点よりも0.6〜1.5℃ほど高温となっている。日平均気温の月平均値が20℃を超すのは7・8月(蟹田では最暖月のみ)であり、また氷点下を記録するのは1・2月であって両月ともほぼ同温となっている。年平均気温は蟹田が9.09℃と低いが、市浦の9.83℃、五所川原の9.90℃、青森の9.97℃であって、いずれも10℃近い気温となっている。年較差は市浦が23.6℃(最暖月22.4℃・最寒月-1.2℃)、蟹田が23.9℃(21.9℃・-2.0℃)、五所川原が25.1℃(23.0℃・-2.1℃)、青森が24.8℃(23.1℃・-1.7℃)となっていて、五所川原及び青森においては年較差がやや大きい。日最高気温の月平均値で、20℃以上を記録するのは6〜9月(蟹田は7〜9月)であるが、日最低気温の月平均値においては20℃以上を記録することはない。日最低気温の月平均値で、氷点下を記録するのは4地点とも12月及び1〜3月であって、市浦が−3℃台、五所川原及び青森が−4℃台、蟹田では−5℃台となっている。なお、日最高気温の年平均値では五所川原及び青森が13.7℃以上なのに対して市浦及び蟹田が13.0℃以下となっている。日最低気温の年平均値は蟹田が 5.4℃と低いが、他の3地点では6.2℃以上である。

 

 ハ 降水量

 概して3〜5月の春季に降水量が少ないことが共通しているが、降水量の多い時期が7〜9月の夏季に集中する北側の2地点(市浦・蟹田)と11〜2月の冬季に集中する南側の2地点(五所川原・青森)とに分かれている。

 市浦の年間降水量は 1228.11o、月平均にして102.34oである。7〜12月までは月間降水量が 100oを超し、特に夏季の7〜9月の3ヶ月間は134〜145oで、極大値は8月の145.73oである。逆に、冬季から春季にかけての2〜5月の4ヶ月間は72.5o以下の降水量で、特に3月の降水量が 57.53oで極小値を示す。

 五所川原の年間降水量は 1184.76o、月平均にして 98.73oである。他の観測地点と違って 100oを割っていて月別降水量の数値が全体的に低い傾向にある。2〜6月の5ヶ月間は90o以下の降水量で、9月、11・12月の3ヶ月が130〜140oの降水量である。極大値は12月の139.73o、極小値は4月の 50.86oである。

 蟹田及び青森の年間降水量は各々1339.77o、1249.75oで、これを月平均の降水量に換算すると、各々111.65o、104.15oとなって、蟹田の降水量が他地域を圧倒している。

 蟹田は6月以降の月間降水量が 100oを超している。特に、7〜9月の3ヶ月間は 150oを超し、極大値は9月の171.06oである。2〜5月の冬季から春季にかけての4ヶ月間は80o以下の降水量で、特に3月の62.2oが極小値を示している。一方、青森では3〜6月の4ヶ月間の降水量が 100o未満で、4月の 60.64oが極小値となっている。4月以降、月を追う毎に降水量が増加していく傾向があり、12月の149.07oが極大値となっている。11〜1月の冬季間の降水量は124〜150oと最も多く、この3ヶ月間で 416.5oを記録している。

 降雪量の月平均値に関して、市浦では、月平均で 100pを超えるのは、1月の 104.9p及び2月の101.75pであって、年間合計値が287.0 pと他地域に比して最も少ない。

 青森では、12月に143.1pの降雪量を記録し、1月に255.5p、2月に 208.9pと他地域を圧倒し、年間合計値も 690p以上に達している。蟹田では、1月の 161.8pの降雪量を除くと市浦を若干上回る程度である。

 

 ニ 日照時間

  市浦での日照時間の月平均値による年間合計値は1708.9時間で、月平均時間にして 142.4時間である。月別での日照時間の月平均値をみると、1月及び12月が46〜50時間と最も短く1日当りの日照時間にして1.5時間(12月)及び1.6時間(1月)である。最長月は8月の 205.5時間、1日当りの日照時間が6.63時間となっている。次いで、5月の 197.9時間、6.38時間である。3〜10月の8ヶ月間における日照時間の月平均値が155〜205時間、1日当りの日照時間が5.0 〜6.38時間である。

 五所川原での日照時間の月平均値による年間合計値は1855.3時間、月平均時間にして 154.6時間であり、市浦よりも月平均で12時間も長いことになる。月別での日照時間の月平均値をみると、1月及び12月が61〜68時間と最も短く1日当りの日照時間にして1.98時間(12月)及び2.21時間(1月)となり、市浦より1日当り30〜40分も日照時間が長いことになる。日照時間が長いのは8月(214.6時間、1日当り6.92時間)及び5月(212.2時間、1日当り6.85時間)である。3〜10月の8ヶ月間における日照時間の月平均値が165〜214時間、1日当りの日照時間が5.33〜6.92時間となって、市浦と比較して全般的に長いことが明確である。

 ところで、蟹田及び青森での日照時間の月平均値による年間合計値をみると、各々1680.8時間(月平均時間にして140.1時間)、1918.1時間(159.9時間)である。

 蟹田では最長月が5月の 202.5時間(1日当り6.53時間)、最短月が12月の61.8時間(1日当り1.99時間)である。なお、7月の 144.4時間は他地点と比較して極端に短く特徴的である。ちなみに、市浦よりも31時間、五所川原よりも45時間、青森よりも50時間も短い。

 青森では最長月が5月の229.3時間(1日当り7.40時間)、最短月が12月の70.7時間(1日当り2.28時間)である。特に青森では4〜8月の春季から夏季にかけての5ヶ月間における日照時間の月平均値が他地域に比して長く1057.9時間もある。五所川原が1013.6時間、市浦が952.1 時間となっている。青森が五所川原を除いて他地点より年間で210〜238時間も日照時間が長く、月平均にして17〜20時間、1日当り34〜40分も長いことになる。

 

 ホ 風向出現率

 各観測地点における風向出現率(十六方位で示す)については、地理的環境が反映されているせいか、各々特徴的な風配図となっている。なお、各地域の風配図において風向出現率が1%未満の方位については省略している。

 市浦での全年における風向出現率は、西寄りの風(西風6.9%、西北西風7.6%、北西風24.6%、北北西風16.3%)が55.4%、南東寄りの風(東風16.8%、東南東風 9.7%、南東風 5.7%、南南東風 4.8%)が37.0%と、北西方向及び南東方向の正反対の風が卓越している。季節による風向出現率をみると、次のとおりである。

 冬季(12月〜2月) 西風5.2%、西北西風9.4%、北西風36.8%、北北西風22.5%の西寄りの4方向の風が73.9%と圧倒的な占有率を示し、特に北西風が群を抜いている。この卓越した西寄りの風は、いわゆる冬型の気圧配置による北西季節風と思われる。南東寄りの風(東風5.5%、東南東風3.6%、南東風 5.0%、南南東風6.7%)は20.8%と少ない。

 春季(3月〜5月) 西南西風8.3%、西風10.1%、西北西風9.0%、北西風21.6%、北北西風16.0%と、西寄りの風が65.0%を占めている。冬季で卓越していた北西風の出現率が減少する一方で、西風〜西南西風の出現率が多くなっている。また、津軽山地を越えてきた南東寄りの風(東風16.0%、東南東風 8.7%、南東風 3.6%)の出現率も28.3%と漸増してきている。この南東寄りの風は、いわゆるヤマセ(偏東風)が蟹田−今泉間、金木−内真部間などの低丘陵地を吹き抜けてきたもの、大釈迦の低丘陵地を吹き抜けた後に津軽山地西縁に沿って北上したものと考えられる。

 夏季(6月〜8月) 夏は南東寄りの風(東風29.7%、東南東風17.0%、南東風 5.3%)が52%と卓越している。この南東寄りの風は春季から漸増してきた山越えのヤマセがピークに達し、風向も東風及び東南東風に限定されている傾向がある。また、日本海から吹き付ける西寄りの風は北西風16.6%、北北西風11.6%の計28.2%と、冬季の3分の1以下に減少している。

 秋季(9月〜11月) 南東寄りの風(東風15.6%、東南東風9.4%、南東風8.9%)が33.9%と漸減してはいるものの、南南東風 9.0%を加えると42.9%となり、依然として高い出現率を示している。しかし、西寄りの風(西風 4.3%、西北西風 8.0%、北西風23.5%、北北西風15.2%)は51.0%と高い出現率を示している。特に、北西風の出現率が23.5%と高くなっていることは確実に季節の変化を感じさせる。

 五所川原での全年における風向出現率は、西寄りの風(北西風19.6%、西北西風12.5%、西風9.2%、西南西風6.9%)が48.2%と高い占有率を示し、次いで南東寄りの風(南南東風12.2%、南東風12.2%)が24.4%、北東寄りの風(北東風7.3%、東北東風8.5%)が15.8%と、通年でみると3方向の風が卓越している。季節による風向出現率をみることにする。

 冬季(12月〜2月) 北西風17.4%、西北西風19.0%、西風13.9%、西南西風13.3%と、幅広い風向をもつものの全体としては西寄りの4方向の風で63.6%を占めている。また南東寄りの風(南東風12.4%、南南東風13.0%)が25.4%を示している。この西寄りの風は、冬の北西季節風が岩木山麓の北側を時計回りに吹き込んだものであり、南東寄りの風は岩木山麓の南側を反時計回りに迂回したり白神山地を越え八甲田山系の西斜面に沿って平川流域方面を北上したりした冬の季節風が津軽平野南部で収束し、そして五所川原付近を南東方向に吹き抜けるからだと考えられる。市浦における冬型の典型的な卓越風と違い、地形に支配された風向がみられる。

 春季(3月〜5月) 北西風22.5%、西北西風12.9%、西風9.7%、西南西風7.1%の、西寄りの4方向の風が52.2%と、冬季よりもやや後退するものの依然として出現率が高い。特に、北西風の出現率が冬季よりも高くなっているのが特徴的である。南東寄りの風(南南東風9.7%、南東風9.2%)も18.9%と同様に出現率が後退している。その一方で、山越えしたヤマセが北東寄りの風(北東風5.5%、東北東風8.0%)として13.5%と台頭しはじめてきた。

 夏季(6月〜8月) 北東寄りの風(北東風19.8%、東北東風17.1%、東風 4.1%)が41.0%と急激に出現率が増加している。津軽山地でも、大釈迦及び金木−内真部間などの低丘陵地を越えたヤマセが岩木山東麓の平野部においてその北麓を通過して日本海に出るものと平野部を南下するものとに分流される傾向がある。五所川原付近はその分岐点に相当するものと考えられる。西寄りの風が後退しているとはいうものの、特に北西風が22.4%と依然として20%以上の出現率を保ち、北東寄りの風と対峙して夏季を支配している。南東寄りの風(南南東風6.2%、南東風5.7%)は出現率が激減している。

 秋季(9月〜11月) 南東寄りの風(南南東風20.1%、南東風21.6%)が41.7%と、その出現率が急増している。西寄り(北西風16.0%、西北西風8.9%、西風9.4%、西南西風 6.0%)の4方向の風は冬季以外も安定していて、39.3%と高い出現率を保持している。ヤマセによる北東寄りの風(北東風 3.2%、東北東風6.6%)の出現率が 9.8%と激減している。

 蟹田での全年における風向出現率は東西方向に偏っている。特に、西寄りの風(西風28.4%、西北西風36.6%)が65.0%と圧倒的な出現率を占めていて、東寄りの風(東南東風17.2%、東風 4.3%)が21.5%と次いでいる。この西寄りの風(西風及び西北西風)は、冬の北西季節風など日本海から吹き付ける風が津軽海峡に面する今別から蟹田へ、また平野部の今泉から蟹田へ達する途中、津軽山地の低丘陵地内にある蟹田町大平付近で収束したのちに陸奥湾で発散する風である。また東寄りの風は、オホーツク海高気圧の張り出しによる北東風(ヤマセ)が下北半島頸部、陸奥湾を通過し津軽山地に達した風であって、津軽山地の大釈迦、金木−内真部間、今泉−蟹田間等の低丘陵地で収束し、山越えしたのち津軽平野で発散している。東西両方向の卓越風は津軽山地東縁の蟹田付近で収束及び発散する場となっていると思われる。

 季節毎の風向出現率をみると、西寄りの風については冬季が83.6%、春季が67.0%、夏季が36.6%、秋季が73.4%であって、夏季以外は他の風向出現率を圧倒している。一方、夏季においては東寄りの風(東南東風31.5%、東風10.1%)が41.6%と出現率が高くなっている。なお、北東寄りの風(北東風11.4%、東北東風6.7%)も18.1%と高い。

 青森での全年における風向出現率は他の観測地点と比較してかなり相違点がみられる。全般に、南風から西風にかけての風(南風6.0%、南南西風14.6%、南西風20.9%、西南西風12.2%、西風8.4%)が62.1%と卓越し、次いで北寄りの風(北北西風4.1%、北風7.1%、北北東風5.3%)が16.5%、東北東風が9.2%と出現率が高い。季節毎の風向出現率をみると、南風から西風にかけての風(南風、南南西風、南西風、西南西風、西風)は、冬季で89.2%、春季で61.6%、夏季で27.2%、秋季で71.9%の出現率を示している。蟹田での西寄りの風と同様に、夏季以外は他の風向出現率を圧倒し、特に冬季においては89.2%ときわめて出現率が高い。

 冬の北西季節風を含めて日本海から吹き付けてきた風は、岩木山北麓では北西方から吹き、南麓では反時計回りに迂回して吹き込み、さらには平川流域を北上して平野部に達している。そして、平野南部において風の収束帯を形成した後、大釈迦の低丘陵地を越えて青森湾に達するときに青森市街地を南風から西風にかけての卓越風として吹き抜けていくものと考えられる。 夏季においては、青森湾からの北寄りの風(北北西風11.7%、北風17.7%、北北東風11.0%)が40.4%と出現率が高く、また東北東風も16.1%と高い。いずれも夏季における卓越風となっている。この北寄りの風は、陸奥湾に達したヤマセが夏泊半島を迂回した後に、湾奥部に向かって吹き込んだ風であり、東北東風は夏泊半島を山越えしてきたものと思われる。

 各観測地点での月平均の風速について年平均値をみると、市浦が2.45 m/s、蟹田が2.46 m/s、五所川原が2.28m/s、青森が 2.9 m/sであって、これはビューフォート風力階級表の2(風速1.6〜3.4 m/s)に相当する。また、月別の平均風速もおよそ風力2の範囲内である。ただ、青森は他地点よりもやや速く、特に五所川原と比較した場合にほぼ同じ曲線を成してはいるものの月平均値で 0.6 m/sも速い。

 青森では6〜9月の夏季には2.3〜2.5 m/s以下の風速であるが、夏季以外では 3.0 m/s以上(10月を除く)であり、特に1月は 3.5 m/sに達している。五所川原では6〜9月の夏季は 2.0 m/s未満の風速であるが、1月の 3.0 m/s以外は2.5〜2.8 m/sの範囲内である。数値こそ違うけれど、青森・五所川原は夏季に遅く、冬季に速い傾向をもっている。

 市浦では5〜10月が2.0〜2.3 m/sで、他の月が2.5〜3.0 m/sとやや速くなっている。

 ただ、蟹田は他の地点と異なり、3〜5月の春季においては2.7〜2.9 m/sとやや速く、他の季節では2.2〜2.4 m/sと平均的な風速である。

 

 ヘ まとめ

 青森県は、降水量の少ない低温地域に属する。ただ、冬季における日本海側の北西季節風による豪雪、春季から秋季にかけて太平洋側のヤマセによる低温・日照不足等にみられるように地域性があって、八甲田山系が天気境界となり日本海側と太平洋側とでは気候に差異が認められる。津軽平野内にあっても、岩木山麓の北側では冬季の地吹雪と吹き溜りが認められるのが特徴的である。

 では、中里城跡付近の気象について、上述の地域気象観測所のうち、特に市浦及び五所川原の2地点の気象観測データをもとにして推察したい。

 市浦及び五所川原での日平均気温の月平均値から判断して、月平均気温の変動は8月をピークとするピラミッド形の曲線をなすものと思われる。7〜8月には月平均値で20℃を越し、1〜2月には氷点下となるであろう。結果として年平均気温が9.8〜9.9℃と予想される。

 日本海に近い市浦での年間降水量が 1228.11o、月平均にして102.34oであり、やや内陸の五所川原では1184.76o、98.73oとやや少なくなっている。中里城跡付近では、十三湖が介在しているとはいえ障壁となるものでないことから、おそらく市浦とほぼ同量の1230o、102oが推定される。3〜5月の春季には60〜70oと降水量が少なく、7〜9月には135〜145oとピークに達する市浦形の曲線をなすものと思われる。ただ、市浦よりはやや内陸という要素を入れて11〜1月の冬季の降雪量を勘案すると、市浦よりは若干降水量が多いことも考えられ、 100〜130oの降水量が見込まれるかもしれない。

 次にその降雪量であるが、五所川原のデータが不明なので考察しにくいが、冬季の降水量が青森に次いで多いこと及び津軽平野でも豪雪地帯であることなどから判断して、かなりの降雪量が見込まれる。北西季節風は、岩木山によって南北に分流されたのち平野南半において再び収束し、大釈迦の低丘陵地を越えて青森湾へと向かっていく傾向にある。五所川原から青森へと結ぶ線はちょうど風の収束域に位置することから多雪地となっているものと思われる。

 このことから、多少なりとも平野を南下するほどに降雪量が多くなり、少なくとも市浦よりは量的に多いものと思われる。

 市浦での日照時間の月平均値による年間合計値が1708.9時間、月平均にして 142.4時間であり、五所川原では 1855.3時間、154.6時間であって、市浦より月平均で12時間も長いことになる。ただ、この数値の違いは別にして、日照時間の年変化は市浦及び五所川原ともほぼ同形をなしている。おそらく、中里城跡付近も同様に5月及び8月に月平均で205〜215時間の日照時間となり、1月及び12月には50〜60時間の日照時間をもつ曲線になると思われる。

 市浦及び五所川原での風向出現率については上述したとおりである。この2地点での風配図から推して、中里城跡は十三湖の南東部に位置するが、市浦での北西寄りの風に対しては何ら障壁となるものではない。しかし、山越えの偏東風(ヤマセ)に対しては背後(東側)に袴腰岳及び大倉岳等の標高 600m以上の山稜が存在するために、東寄りの風の出現率はさほど多くはないと思われる。ただ、山稜の存在でその南北両側の今泉−蟹田間、金木−内真部間等の標高 200m以下の低丘陵地が風の主なる通り道になっているものと考えられることから、むしろ南寄りの風(南風・南南東風)が多いものと推察される。また、北寄りの風(北風・北北西風・北北東風)も考えられるが、これは日本海から吹き付ける北西寄りの風に包含され、市浦よりも風向の幅がより広いものと思われる。中里城跡付近の全年における風向出現率は市浦の風配図に似て、北西寄りの風が60%、南寄りの風が30%が予想される。

 ところで、表2は青森における気象観測データを、1961〜1990年までの平年値と比較したものである。これによると、日平均気温による年平均値が9.97℃で、平年値の 9.7℃よりも0.27℃も高くなっている。最低気温の年平均値である 6.2℃も平年値の 5.7℃より 0.5℃も高い。しかし、最高気温の年平均値(13.8℃)だけが平年値の14.1℃より 0.3℃も下回っている。

 日平均気温の月平均値をみると、平年値を下回るのは7月だけであって、12月が 0.6℃、6月及び10月が0.5℃、3月が0.4℃も上回っている。日最高気温の月平均値では上回るのは12月の 0.3℃で、同じ平均値を保つのが6月だけである。他は7月が0.8℃、2月が0.7℃、5月が0.6℃というように軒並み下回っている。日最低気温の月平均値では、12月が1.0℃、1月が0.5℃、2月が0.8℃、3月が0.7℃、そして10月が0.9℃も平年値を上回っていて、主に冬季に集中している。このことから、日平均気温による年平均値が平年値を上回っているが、内訳をみると、1〜2月の厳冬期及び7〜8月の夏季における月平均値はほとんど変化が認められないが、9〜12月の秋季から初冬期、3月及び6月の梅雨期が暖かく平年値を大きく上回っている。そして、日最高気温の月平均値が平年値を下回り、日最低気温の月平均値が平年値を上回っていることは、特に冬季間にこの兆候が集中していることを考えると、昨今の暖冬少雪及び冷夏を如実に表現しているものと思われる。

 降水量をみると、年間降水量が1249.75oであって、平年値の 1360.4oと比較して 110oも少なくなっている。通年で減少しているが、1月の27o、11・12月の11〜12oと、冬季における減少が著しい。他に、3・4月に7〜14o、8・9月に17〜20oも減少している。なお、平年値を上回っているのは、2月の1.7o、6月の7.4o、10月の3oであるが、数値が低い。

 日照時間の月平均値による年間合計値が1918.1時間で、平年値の1695時間よりも 223時間、月平均で18.6時間長くなっている。特に、6月が約30時間、3月が28時間、8月が22時間も長くなっている。

 以上から、平年値と比較した青森の準平年値(1977から1911年までの15年間)から判断してもここ7年間継続している異常気象(暖冬少雪・冷夏)の影響が充分に読み取れる。最近の7年間だけを考えるならばもっと顕著な数値となって現われることだろう。他の観測地点でも同様な傾向であろう。

                                 (山口 義伸)

 【引用・参考文献】

 二部 濱男  1989  あおもりの天気  北方新社

 国立天文台編  1992  理科年表 机上版  丸善株式会社